主な研究テーマ

現在の主な研究テーマは、1) 遺伝子動態、2) 生体分子機械、および3)蛋白質フォールディングに関する理論、シミュレーション研究と、4) シミュレーション技法の開発です。そのほかにも、個々の学生が独自に行っている様々なテーマがあります。


p53 遺伝子動態

クロマチン構造、転写、DNA複製

よく言われることですが、ヒトゲノムのDNAは延ばすと総延長が約2mにもなりますが、それが約10ミクロンの大きさの細胞核一つ一つの中に格納されています。その割合は、40kmの長さのヒモをグレープフルーツくらいの大きさの中に押し込んでいることに相当します。それほど圧縮されていながら、必要な時に、必要な情報をその中から探して読み取らなければなりません。これは驚異的なことだと思います。この過程がいかにして実現するのか、物理的に、分子レベルで理解したいと考えています。

真核生物の場合、DNAの圧縮の第一段階は、よく知られているとおり、ヒストン蛋白質に巻きついてヌクレオソームを構築することです。ところが、その次にヌクレオソームがどのように折れたたまるのかについては、多くのモデルがあり、定まっていません。DNAとそれに結合する蛋白質の集合体であるクロマチンが、どのような高次構造を形成し、高度な圧縮状態を実現しているのでしょうか?また、その状態は細胞状況に応じてどのように変化しているのでしょうか。私たちはこれを、物理化学に基づいて理解することを目指しています。

ある遺伝子を発現するためには、長いゲノムDNAの中からその遺伝子をコードしている部分を探索し、その遺伝情報を読み取る必要があります。ゲノムDNAからの遺伝情報探索は、直接的には、転写因子によって行われます。では転写因子は、長く、また高度に圧縮されたクロマチンのなかから、いかにして速やかに遺伝情報を探索できるのでしょうか。これを構造レベルで、物理化学的に理解することを目指しています。

転写因子p53のDNA上のスライディングによる遺伝子探索過程のムービー

ゲノムDNA自身にとって、最もダイナミックな変化は、DNAの複製過程でしょう。正常な細胞分裂のためには、ゲノムDNAの全長が、ただ1回だけ、正確に複製され、分離される必要があります。これを実現する仕組みを、構造レベルで、深く理解したいと考えています。


F1-ATPase myosin-V 生体分子機械の作動原理

分子モーター、トランスポーター

多くの生体分子は、機能サイクルを通じて一定の働きを行う分子機械として様々な生命現象を担っています。その作動原理の理解を目指して、理論研究を行っています。

生体分子機械のなかで、何らかの入力エネルギーを利用して力学的な仕事を行うものを通常、生体分子モーターとよんでいます。例えば、ATPを加水分解する際に得られる化学エネルギーを力学的エネルギーに変えているものとして、ミオシン、キネシン、F1-ATPaseなどがあります。これらは、揺らぐ環境の中で、しばしばかなり正確に、また非常に高いエネルギー変換効率で、化学的エネルギーを力学仕事に変換しています。その作動原理を理論とシミュレーションによって研究しています。

回転分子モーターF1-ATPaseの研究論文

回転分子モーターF1-ATPaseのムービー


folding funnel蛋白質フォールディング

ランダムなひもとして合成される蛋白質が、配列によって決まる固有の天然構造にフォールディングできるのはなぜなのか、そのしくみを理論的に調べています。

多くの小型蛋白質は、試験管の中で一旦変性した後、溶液条件を整えればもとの天然状態にフォールディングし直すことができます。このいわゆるin vitroにおけるフォールディング機構は、1960年代から実験、理論の両面から盛んに研究されてきました。私たちも、1995年頃から10年以上にわたって、理論とシミュレーションによって、この問題に取り組んできました。それらの結果として、現在までに、小型蛋白質がどのようにフォールディングするのか、という問題は大筋では解決したと考えています。

非格子型郷モデルによる18個の蛋白質のフォールディングシミュレーションの論文

物理化学モデルによる3本へリックスバンドル蛋白質のフォールディングシミュレーションの論文

非格子型郷モデルによるsrc SH3のフォールディングムービー

非格子型郷モデルによるfibronectin type IIのフォールディングムービー

しかし、蛋白質フォールディングには、より深刻な難題が存在します。細胞内の蛋白質は、その大多数がマルチドメインからなる大型蛋白質です。実は、これらの多くは、その蛋白質だけを試験管の中にいれて溶液条件を整えても、容易にフォールディングし直すことができません。それでは、細胞内でなぜ蛋白質がフォールディングできるのでしょうか?一つには、細胞内には多くの分子シャペロンとよばれる介助蛋白質があり、分子シャペロンのおかげで多く蛋白質がフォールディング能をもつことができます。もう一つ、細胞内では、蛋白質はN末端から合成され、合成途中でフォールディングが起こります。ある種の蛋白質は、この翻訳と共役した(co-translational)フォールディングによってだけ天然構造に到達できるのです。これらの仕組みは、一見するとただただ複雑なものに見えますが、 その過程自体も、物理的に理解出来るはずのものです。私たちの今の目標は、このいわゆるin vivoフォールディング過程を理論的に理解することです。


生体分子システムのマルチスケールモデリング

上記のような細胞生物学的課題に、分子構造レベルのシミュレーションで取り組もうとすると、現在までに確立されている分子シミュレーション技法だけでは不十分です。この問題を解決するために、生体分子システムの階層性に根ざしたマルチスケールの理論モデリングの技法を開発しています。


その他のテーマ

構造変化と機能

アロステリー

蛋白質が相手との結合によってその構造を変化させることは、広い意味でアロステリーと呼ばれ、すべての生命現象の基礎にある問題です。

Glutamine binding proteinの構造変化シミュレーションのムービー

生体膜動態

計算による蛋白質デザイン

システム生物学

バイオインフォマティクス